決算後に大相場になって急騰したテインについてまとめてみた。
結論から言うと、マニアック商材というネガティブな先入観と閑散銘柄というだけでスルーしていたのは大間違いだった。
自分が銘柄選別で重視する3つの必要条件(①市場、②優位性、③タイミング)を十分に満たしており、決算後に大幅上昇した株価(1000円近辺)でも魅力的な投資対象だと評価した。
①市場
市場について考える前に、戦略製品であるEnduraProについて説明しておく。
EnduraProは2017年に販売が始まった純正形状ショックアブソーバである。ショックアブソーバは衝撃減衰を担うサスペンションを構成する主要パーツのことだが、サスペンションの同義語として使われていることも多い。(要確認)
それよりも重要なのは、「純正形状」という修飾語が付いていることだ。純正とはその名の通り新車に元から付いているパーツのことである。プリンターの純正インクの純正と同じニュアンスだと考えるとイメージしやすい。
なぜ「純正形状」が重要かと言えば、純正形状は新車のパーツと同一規格なので取り付けも容易であり、改造向けの車高調整式サスペンション*と比べて機能が限定されるぶん比較的低価格で補修品としてのアフターマケットで需要がある。特に、後述するように道路条件が悪い海外市場でより大きな需要が期待できる世界戦略製品である。
*車高調整式サスペンション(車高調):車体の高さを変更できるサスペンション。規格が決まっている純正形状品よりも自由な設計が可能なこともあって高機能な製品が多いが、そのぶん価格も高価になる。
ここで出てきた目標本数の180万本を、戦略製品でありラインナップのなかで低価格であるEnduraProの単価を15000円として計算すると、売上が270億円(180万×15000)になる。
これはアフターマーケットのシェア1%で見積もった数字である。シェア2%ならこの2倍に540億円になり、これは直近売上40億円の10倍を余裕で超える数字だ。
海外では日本とは道路事情が異なるので、消耗品として頻繁に交換されるケースが多い。なかにはタイヤと同じ頻度で交換が必要な地域もあり、継続的な需要が期待できる。純正形状には一度シェアを獲得したら継続的な売上になるストックビジネスのポテンシャルがある。これは改造目的の利用がメインの車高調と決定的に異なるところだ。
Keeper技研の資料によると、平均車齢が伸び続けているので国内の自動車アフターマーケットは底堅い。新車販売の認識で市場を過小評価するのは間違いだ。
②優位性
市場が魅力的であればあるほど参入事業者が増えてレッドオーシャンになるので、競合を圧倒する優位性がなければ生き残ることができない。テインの優位性については過去と未来の2つの時間軸で見出すことができる。1つめは車高調方式サスペンションで獲得したこれまでの市場シェアで、2つめは戦略商品のEnduraProで期待できるこれからの成長性だ。
車高調整式ショックアブソーバー市場におけるテインのシェアは、国内40%以上、中国とアジアが20~30%、グローバルで10%程度。
既存の主力製品である車高調のシェアは改造車向けの小さいマーケットとは言え国内で4割超のトップシェアである。1985年の創業から30年以上かけてプロ向けパーツの実績から一般向けに需要を広げてきた成果である。市場シェアは製品力、営業力、ブランドなどすべての要素を包括した総合力のトラックレコードであり、競争優位性そのものである。世界シェアについてはくわしい情報が出てこなかったが中国、アジアでの3割というのが正しければ市場規模を考慮すれば十分な数字だ。
そして、これからの成長を担うのは、先に述べたように世界のアフターマケットにおける戦略製品である純正形状ショックアブソーバEnduraProである。この製品の可能性に今後の成長性を見出すことができる。アフターマーケットの可能性についてはすでに説明したのでここではEnduraProという製品そのものに焦点を当ててみる、
我々は、我々の考える最適な、耐久性に着目した設計の製品を販売することができます。ロシアなどですと、純正のアブソーバーは3ヶ月程度ででダメになってしまうこともあるようで、純正の安いリプレイスメントよりも、「2割高いが、ライフが2倍ある」という製品を販売できれば、それを購入していただけると思っています。
「純正のリプレイス品より2割高いが、耐久性が2倍ある。」というのが正しければ、新車に装着されている純正品から消耗品向けのアフターマケットでシェアを奪うことができるのでは?海外では道路条件が悪くてアブソーバの消耗が激しいのでどうしても交換頻度が高くなる。耐久性が高いことは道路条件が悪い海外ほど訴求効果が高い。とは言っても、会社側のPRとも受け取れるコメントをそのまま受け入れることはできないので真偽判定は慎重に行わなければいけない。この真偽が今後のテインの成長性および投資結果を左右すると思う。
サスペンションは個人で装着するのが難しいのでアフターマーケットでシェアを拡大するには製品について理解がある販売店のネットワークの拡充が必須だ。ここで車高調で積み上げた実績(アジアでは3割弱)が強みになってくる。これまでの市場シェアがこれからの成長性に繋がるのである。
また、HPを確認するとEnduraProの対応車種の随時増加していることがわかる。この対応車種の増加が純正形状アブソーバとしての製品としての強みになり販売店開拓を後押しすることにもなる。(販売店側としても対応車種が多いほうが利用者にアピールできる)
最大の競合先は先に述べたように純正品メーカーだ。なかでもTier1(国内の上場企業ではKYBが該当)は大企業なので単純な資本力では太刀打ちできない。ただし、アフターマーケットでは事情が異なってくる。純正品は特定の自動車向けに大量生産する必要があるので、対応車種を増やせない、小ロット生産できないという制約がある。この競合の制約がそのままテインの競合優位性になるのである。(この競合の事情に関しては根拠が小さいので調査が必要)
現行工場だけでも(工場内の製造ラインの増築は必要だとしても)年間で120万本を製造するキャッパシティがあるので、現状のリソースで増産に耐えうる余力があると思われる。
③タイミング
これまでEnduraProという製品とその需要について説明してきたが、2017年から販売開始したばかりの製品なので現時点の収益貢献は限定的である。業績面では成長ロケットのエンジンに点火すらしていない段階だと言える。言い換えれば、EnduraProが自動車アフターマ-ケットで確固たるポジションを築くという期待が現実のものとなった時には成長ペースがシフトチェンジしているのは間違いない。つまり、投資するタイミングとしては直近の株価が急上昇した今でもまだ十分猶予があるということだ。(逆にまだ早すぎるかもしれないが。)
四季報に「改造車専用サスペンション専業メーカー」と記載されているくらいなので、テインを改造用のパーツを扱うニッチビジネス企業としてネガティブな先入観で見ている人が多数派だと思われる。ここまで説明したようにその先入観は間違っていて、「改造用サスペンションで獲得したシェアを強みに巨大な消耗品のアフターマーケットで勝負する専業メーカー」というのが自分の評価だ。多くの人が抱えるネガティブな先入観で不合理に評価が押し下げられている時に投資のチャンスが転がっている。ネガティブな先入観が覆される前に狙うのがタイミングとして適切だ。
要約
- 直近売上10倍以上の市場がある。
- 海外の道路事情ではショックアブソーバは消耗品として頻繁に交換される。なかには1,2年で交換が必要にケースも。
- 国内の新車販売は減少しているが平均車齢が増加していることもあり自動車アフターマーケット市場は伸びている。
- EnduraProは純正のリプレイス品より2割高いが、耐久性が2倍あると会社側が説明している。
- 改造用サスペンションで獲得したシェアを強みに巨大な消耗品のアフターマーケットで勝負をする専業メーカー。
- 多くの人がネガティブな先入観を持っている銘柄にこそチャンスがある。
自動車アフターマケットの市場は巨大なので、市場に関しては深く考える必要はないと思う。それよりも競合企業の、それも純正品メーカーとの力関係と、戦略製品EnduraProの優位性を常に監視しておく必要がある。特に「2割高いが2倍の耐久性」が本当なのかどうかを。
ネガティブな先入観で期待値が低い状況であり、成長エンジンとなる戦略商品の収益貢献もこれからなので適切な投資タイミングはこれからやってくると思うが、最適なタイミングなんて考えてもわからないので、適当なところで適切なボリュームのポジを持っておくのがいいのでは?
2021/3/10追記
2017年のKYBの中期経営計画より抜粋
市販(補修用)ショックアブソーバの売上比率は2017年の時点で3割くらいで、売上本数は2100万本。 テインの目標本数180本の10倍以上になる。